あの懐かしき空の下で
第3話〜苦悩の隠蔽〜
誰かが語った空
僕は混乱していた。
確かにクィルケさんにはどこかで会っているような雰囲気はあった。
確かにクィルケさんは妹と同年代だとも思っていた。
確かに妹とはしばらく会っていないということもある。
確かに僕が実家を出たときには、妹は小学校から中学校に上がる年で、成長しているだろうとも思う。
それに、オフ会のときはクィルケさんとは常にちょっとはなれた場所にいたから、お互いにじっくり顔を見たわけではない。
でも、まさか自分が実の妹に会って、その顔がわからないとは思わなかったし、その逆もそうだった。
どんなに年月が経っても、(記憶から削除したいと思っている親の事でさえ)肉親は一目で見分けがつくと思っていた。
・・・それがまさか、一番大切に思っていた、一番身近に感じていた妹の顔がわからなかったなんて・・・
妹が変わりすぎたのか??
それとも僕が妹を忘れてしまったのか??
どちらにしても僕は妹を見分ける事は出来なかった・・・
なんでこんな事になってしまったんだろう・・・
いろいろな事が頭に浮かんでは消えていった。
あのクィルケさんのメッセージを見てから、真っ白な頭の中で、ただ意味の無い考えだけが空回りしていた。
クィルケさん−−−つまり妹−−−がメッセージを送ってきてからどれくらい時間が経ったのだろう?
僕には永遠のように感じた時間だが、実際には大した時間は経っていないのだろう。
それでも、妹がメッセージを送ってきてからそれなりに時間が経っていたらしく、
返事が無い事を不審に思ったのだろうか(後から考えるとそんな事は無かったんだろうが)、妹がまたメッセージを送ってきた。
『どうしたんですか?? 兄を知ってるんですか??』
・・・ふと我に返った。
そういえば、まだメッセンジャでメッセージのやり取りをしていたんだった。
(僕はどう答えたらいいんだろうか?? どう答えるべきなんだろうか??)
いくら考えても考えがまとまりそうに無かった。
(とりあえず、考えがまとまる前に本当の事を話すのは良くないだろうな・・・)
そう考え、適当に答えを返す事にする。
『あぁ、ごめんごめん。ちょっと席を外してたんだ。
ん〜〜〜そ〜ゆ〜名前に聞き覚えがある気はするけど、直接の知り合いじゃないねぇ〜』
と、すぐに妹が返事を返してきた。
『どういうつながりで知っているんですか?? 教えてください!!』
『何せ6年も前のことだからねぇ〜〜 よく覚えてないや。 本当に知っている名前かも怪しいしね。』
とごまかしてみる。
(そんなに僕を探したいのか?? でも、何で今更・・・)
とも思ったが、下手に突っ込むと疑われる恐れもあるので、聞かないでおこうと思った。
どうやら、妹は本気で残念だったらしく、
『そうですか・・・・ 何か思い出したら教えてください。 それじゃあ、私は落ちますね。 おやすみなさい。』
と言ってきて、こちらの返事も待たずに落ちてしまった。
この時は、ただごまかせた事だけでほっとしていた。
まさか、この事が後々、妹の心に傷を残すとは、ましてやあんな事態になろうとは思ってもいなかった。
To be continued.
誰かが語った空