夢から覚めたら
第6回
誰かが語った空
近づいてきた女の顔は、何処かで見覚えのあるものだった。
なにか引っかかる感覚があって、僕は逃げる事もできずに、その女を何処で見たのか考えていた。
しかし、思い出せない。
そんな事だから、あっさりその女に見つかってしまった。
「あら、こんなところにいたのね。お久しぶりね。
逃げたと言っていたのに、ここにいるって事は・・・・・・もしかして会いに来てくれたの?」
そう言われても、思い出せない。しょうがないので、
「あなたは・・・・・・誰なんですか? 僕とどこで会った事があるんですか?
残念ながら、僕にはあなたが誰だかわからない・・・。
確かに、どこかで会ったような気がするんだけど・・・」
と言うと、女は悲しそうな顔をした。
「そう・・・・・・。そうね、しょうがないのかもしれない。
最後に会ってから、もう10年も過ぎているんだものね。
でも、忘れられてるなんて・・・・・・やっぱりショックね。」
・・・10年前?僕が小学校の時か?もしかして、同級生だったのかな?
そう思ったが、明らかに、女は僕より10歳くらいは年上に見えた。
・・・じゃあ、近所にいたお姉さん?でも、そんな人いたっけなぁ・・・
まったく思いつかない。と、その時、
『ミツケタ・・・・・・』
え??あ、さっきの「埴輪」だ・・・・・・
『モクヒョウ、ホカクスル』
おいおい・・・・・・また追いかけられるのか? そう思って、逃げようとすると、
「もう良いのよ。お前はお帰り。」
と、女が「埴輪」に声をかけた。すると、
『リョウカイ。カエル。』
と言い残して、「埴輪」は向こうに見える白い建物の方に去っていった。
「ごめんなさいね。あの子はちょっと融通が利かないところがあって・・・・・・」
そう言って女は微笑んだ。
「いやぁ、いいんですよ、別に。
ところであなたは、誰なんですか?
最後に会ったのが10年前ってことは、僕が小学校の頃だと思うんだけど・・・・・・」
そう言うと、女は不思議そうな顔をして、
「何を言っているの?あなたはもう30過ぎのはず・・・・・・
まさか・・・・・・ あの家の中では時間の流れが違うと言うの?」
そして、驚いた顔に変わっていった。
「そういえば、あなたはあの頃と何も変わっていない・・・・・・
少なくとも外見はあの頃のままだわ。
やっぱり、あの家の中では時間の流れが違うとしか思えないわね。」
・・・何を言っているんだ? あの家では時間の流れが違う?
・・・ってことは、僕にとっては、つい最近の事か?
あの家にいた時に会った女性は1人しかいない。そう、彼女だ。
・・・彼女? 名前はなんと言ったっけ・・・?なにか、記憶があやふやになっている。
その考えが顔に出てしまったらしい。
「まだわからないの? あたしよ、あ・た・し。」
ちょっと怒ったみたいだ。
・・・やっぱり彼女だ。気性も変わっていない。
「いや、思い出したよ。でも、なんで10年も経ってるんだ?
僕にとってはまだせいぜい数時間にしか思えてないんだけど・・・」
「・・・ほんとに思い出したの?」
疑いの目を向けてくる。
「じゃあ、あたしの名前は?」
・・・答えられない。
「ごめん。名前だけが思い出せないんだ。
・・・でも、本当に思い出したんだよ。」
「信じられないわね。あなたはいつもそうだったから。」
やっぱり疑われている・・・・・・。
「でも、ほんとなんだ。信じてくれとは言わないけど、
君が否定したところで、この事実は変わらないよ。」
そう言う僕に、彼女は・・・・・・。
「ほんとに、いつもと変わらない事を言うのね。全然進歩の無い人・・・・・・。
あたしの名前以外は全部覚えてるのに、あたしの名前だけ忘れたと言うの?」
そう言われて、ふと考える。
・・・彼女以外の名前?そういえば、考えてなかったな・・・・・・。
・・・えーーと、まず、僕の名前は・・・・・・。
そこまで考えてから唐突に気が付いた。
「僕の名前が・・・・・・わからない・・・・・・!!」
つづく
誰かが語った空