夢から覚めたら
第7回

誰かが語った空


「僕の名前が・・・・・・わからない・・・・・・!!」

ショックのあまり、思わず叫んでしまった。それくらい衝撃的だった。

「まだそんな事を言うのね。つくづく進歩の無い人・・・・・」

彼女の視線が冷たくなった気がする。

しかし、自分の名前がわからないのが事実である以上、僕にはどうする事も出来ない。

・・・いや、1つだけあった。

「じゃあ聞くけど、僕の名前を教えてくれないか??」

本人がわからなくなってるんだ。彼女が覚えてるはずが無い。

その事実に気付いてくれれば機嫌も直るだろう。その後でゆっくり話し合えばいい。

そんな考えを、彼女は、

「何言ってるの?あなたの名前は隆司じゃない。ほんとに怒るわよ!!」

・・・そう言われてみれば、僕の名前は隆司だ・・・・・・ なんで忘れていたんだろう?

考えても判りそうに無いので、もう1つも聞いてみる。

「じゃあ、君の名前は?」

「やっぱり判ってなかったのね!!いいわ、教えてあげる。

 あたしは洋子よ。それ以外の何者でもないわ!!」

・・・これも、そう言われてみればそんな気がする・・・・・・

「そう言われてみればそんな気もする・・・・・・」

考えた事をそのまま口に出して言ってしまった。

「そんな気もする?まだはっきりと認めたくないの?

 前と変わらないと思ってたけど、もっと性質が悪くなってたようね!!」

やばい・・・ もっと怒らせちゃった・・・ ああなったらもう手が付けられない。

じっと、機嫌が直るのを待つしかないか・・・。

「もういいわ!! あなたにはもううんざりよ!!今すぐこの世界から姿を消して!!」

・・・完全に怒ってるなぁ。あの手でいってみるか・・・

「それが出来ればそうしたいよ。僕は元の世界に戻りたい。君と一緒にね。」

「本気で言ってるの?

 名前もわからない女の子に向かって、よくそんな事が言えたものね!!

 いいわ!そんなにこの世界から消えたいんだったら消してあげる。

 お望み通り、わたしも一緒にね!!」

・・・え?なんか期待してたのと全然展開が違うんだけど・・・

あいつなら、この手のセリフには照れちゃって、怒りも収まるはずなんだけど・・・

そう思いながら、口は別の事を聞いていた。

「一緒にってどうするつもりだい?」

「あなたと一緒に死ぬの。そして、あなたをあたしの理想のままにしておくの!!」

・・・おかしい。絶対におかしい。

彼女は自分から死ぬという言葉を口に出すのをものすごく嫌っていた。

例えそれが自分であろうと、他人であろうとだ。

それが、自分から一緒に死ぬなんて・・・・・・

「・・・君は本当に洋子かい?

 僕の知ってる彼女は間違ってもそんな事を言う娘じゃなかったよ。」

「なんで名前も覚えてないのに、そんな事が言えるの?

 ほんとに相変わらずいいかげんね!!」

「確かに名前は忘れていたけど、君の事はちゃんと覚えてるよ。

 初めて会った時の事からね。」

間を置かずに答える。

・・・もしかして、こいつは偽者じゃないのか?そんな考えが浮かんでいる。

それを確認するためにも、相手のペースに乗ってはいけない。

「初めて会った時、僕が君に何て言ったか覚えてるかい??」

逆に質問をしてみる。

「も・・・もちろん覚えてるわよ。」

「じゃあ、何て言ったんだい?」

「た・・・確か、かわいいって言ってくれたわよね?

 あ、もしかして、かっこいいだったかしら?」

・・・違う。こいつは偽者だ。

「正体を現しな、偽者さん。君が何者であれ、彼女の姿をしたままでいて欲しくないね。」

「な・・・何言ってるのよ。ちょっと間違ったくらいで・・・・

 言葉は違っても、あたしを口説いた事に間違えないでしょ??」

・・・これで決まりだ。

「ははは・・・誰が誰を口説いたって??

 僕が初めて彼女に会ったとき言ったのは、『気が強いんだね。』だよ。

 そう言ったら、彼女は怒っちゃったけどね。・・・まぁ、普通は怒るか・・・。

 とにかく、君は偽者だ。正体を現さないなら、この手で排除する!!」

そう言って、ポケットの中にあったナイフを取り出して、相手に向けた。

「ちょっと待ってよ。あたしは本物よ。その証拠に・・・・」

「だまれ!!これ以上グダグダ言ってると、本当に殺すぞ!」

そう言って、ナイフを振って見せる。

「だから待ってってば、あたしは・・・・・」

「黙れと言った!!」

グサッ!!

・・・え??

一瞬理解ができなかった。僕の胸に・・・ナイフが・・・刺さっている。

僕が威嚇でナイフを振った瞬間、彼女が動いて、僕の胸にナイフが・・・

「きゃあ〜〜〜!!」

・・・何で彼女が悲鳴を・・・上げ・・・て・・・いる・・・

ドサッ

意識が朦朧となって、体が地面に崩れ落ちた。

「しっかりしてよ・・・ねぇ・・・返事をして・・・」

あ・・・ない・・てる・・・とき・・・の・・・こ・・・え・・・だ・・・

「ナイフなんて振り回さないでよ・・・反射的に動いちゃったじゃない・・・

 ねぇ・・・目を開けてよ・・・冗談はやめてさぁ・・・」

・・・ね・・・む・・・い・・・・・・な・・・に・・・かが・・・ちか・・・づ・・・いて・・・

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「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」

僕は声を上げて跳ね起きた。

「ゆ・・・夢か・・・・・・・」

動悸が早くなっているのがわかる。

「目が覚めたみたいね。どうしたの?叫んだりして。」

ビクッとして声の方を振り向く。心臓が止まるかと思った。

「な・・・なによ、急に振り向いたりして・・・。びっくりするじゃない。」

そこには驚いている女の子の顔があった。見慣れた顔だった。少しほっとして、

「ああ、ごめん。誰かがいるなんて思わなかったから・・・・・・」

そう言ってから気がついた。

「なんで君がここにいる?ここは僕の部屋だろう?」

そう言う僕に、彼女は心配そうな顔をした。

「違うわよ。大丈夫?記憶が飛んでるんじゃない?よく周りを見てごらんなさい。」

そう言われてあたりを見回すと、確かに僕の部屋じゃなかった。見覚えが・・・ある・・・。

あの部屋だ・・・・・・。


誰かが語った空