夢から覚めたら
第5回

誰かが語った空


「じょ・・・冗談だろ?なんだよこれ・・・・・・」

思わず間の抜けた声を出してしまったが、しょうがないことだろう。

なんせ、廊下(だと思う)の先に、でかい埴輪としか思えないものが倒れていたんだから・・・。

「何だよこれ・・・・・何でこんなものが・・・・・」

そういって、ふと気がついた。

・・・そうだ。ここは夢の中だもんな。何でもありなわけだ。

そうとわかれば、こんなわけのわからないものに用は無い。

そう考えて部屋に戻ろうとした時、いきなりそれが動き出した。

「埴輪」は、立ち上がってこっちを向いた。(顔らしきものが刻まれていたから、こっちが前だろう)

『ミツケタ・・・』

・・・何をだ?

一瞬、何のことかわからなかったが、次の瞬間、嫌でもわからされた。

「埴輪」が僕の方に向かって動き出したからだ。

考える事より、体の方が反応していた。

つまり、僕は「埴輪」とは逆の方に逃げ出していた。

殺されるというような恐怖は感じなかったが、

不気味さとわけのわからなさから来る生理的嫌悪感がそうさせたのだろう。

・・・なんなんだよ。夢の中でもこんなのは嫌だなぁ。

などと考えながら走っていると、建物の出口らしきドアが見えた。

深くは考えずにそのドアを開けた。

・・・やっぱり外に通じていた。森の中のようだ。

後ろから追ってくる「埴輪」のことを考え、森の中に隠れようと思った。

手近な木に身を隠すと、ちょうどドアから「埴輪」が出てきて、そのまま走り去っていった。

・・・なんだったんだろう?

木の影から、「埴輪」が走っていった方向をのぞいてみる。

あまりスピードは速くないらしく、まだ後姿(?)が確認できる。

無視してもよかったのだが、放っておくとまた戻ってくるような気がした。

・・・ついて行ってみようかな。気になるし・・・

そう考えて、「埴輪」を見失わない程度の距離の距離をあけてついていくことにした。

・・・それにしても、なんてむちゃくちゃな夢だ。まぁ夢だからしょうがないか。

なんか矛盾しているような気もするが、そうとでも考えなければ理解ができない。

「埴輪」は道を(速くはないが)移動しながら、時々あたりを見まわしているのだろう、

体を左右に回転させている。

周りの木は、それほど密集しておらず、「埴輪」が木にぶつかる事はなかった。

そのうちに、湖らしき水辺に出た。

「埴輪」は右に曲がり、水辺に沿って進んでいく。

その先には白い建物のようなものが見える。

・・・あそこに行くのかな?

そう思っていたが、違ったらしい。

「埴輪」の横から声がかかった。

「ご苦労様。で、どうだったの?」

・・・?女の声だよな、これ。どこから声がするんだ?

声のする方向は、ちょうど僕がいるところからは影になっていて見えにくかった。

『モクヒョウ、ニゲタ』

「逃げた?どこに?」

・・・上の方か?

そう思って木の上の方を探してみる。

『コッチニニゲタ。コナカッタカ?』

「そう・・・。ここには来なかったわ。どこかに隠れたんでしょうね。

 まぁいいわ。ご苦労様。しばらく休んでいて。」

・・・探す必要は無かったようだ。

その声の主が木の影から歩き出てきた。やはり女のようだ。

「それにしても、何処に行ったのかしら・・・。案外、この辺にいたりしてね。」

そう言って、その女があたりを見まわした。

・・・やばいかな?そう思っって、後ずさりをした時、うっかり木の枝を踏んでしまった。

パキッという、乾いた音がした。

「誰っ?そこにいるのは・・・・」

そう言って、女が近づいてきた・・・・・・。

その顔は・・・・・・。

つづく

誰かが語った空